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書籍案内(陽明学のすすめW 人間学講話「河井継之助」)
<書評>
深澤賢治著『陽明学のすすめ W 人間学講話「河井継之助」』
群馬社会福祉大学教授・文学博士 中里麦外


 本書は、陽明学のすすめシリーズとして刊行された「抜本塞源論」「安岡正篤・六中観」「山田方谷『擬対策』」に続く第4弾である。
 平成17年から8年間で都合4冊が出版されたことになる。さらに渋沢栄一をテーマとした第5巻が近く刊行される予定という。全10巻のこのシリーズは、残すところ5冊。この刊行ペースでいけば、数年後には完結を見て、その全貌が明らかとなるであろう。いずれにしても凄まじい筆力と言わなければならない。
 著者は、中斎塾フォーラムを立ち上げ、その塾長として新しい社会と人間の生き方を実践するという運動を精力的に展開している。そうした運動を支えるパワーの根源は、著者が標榜する<知足主義>にある。知足。すなわち足るを知るとは、不自由を耐え忍ぶといった消極的な行為ではない。それはいわば物我一如という調和力を激しく求める一種の過激な実践活動そのものである。このシリーズが「陽明学のすすめ」と名づけられたゆえんもまたそこにあろう。
 本書は河井継之助の人物像、漢詩・旅日記・手紙・寸言、余話、文献、河井継之助略年譜で構成されている。これまでの著者の手法は、対象とした人物やその著作物への独創的な解釈において見事な手際を示したところに特徴があった。しかし、このたびは博捜した資料を自在に駆使して、河井継之助の人物像とその業績や時代背景を浮き彫りにするという方法に出ている。つまり河井継之助という稀有な人物の魅力とその革命的な仕事の性格が、あたかも眼前の映像を見るように描かれているのだ。それが本書の魅力でもある。著者の時代の病根を見抜く洞察力は、極めて深い。本書が確かな時代救済力を獲得したのは、理由のないことではないのである。