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書籍案内(陽明学のすすめV 「山田方谷「擬対策」)
<書評>
深澤賢治著『陽明学のすすめ V 山田方谷「擬対策」』
群馬社会福祉大学教授・文学博士 中里麦外


 本書は『陽明学のすすめ』シリーズの第3弾である。第1巻の『陽明学のすすめ 経営講話「抜本塞源論」』が出版されたのが平成17年9月のことだから、ほぼ一年に一冊のペースで刊行されてきたことになる。
 いずれにしても、凄まじい筆力といわねばならない。かつて、明治という時代が、福沢諭吉をして『学問のすゝめ』を書かしめたが、この『陽明学のすすめ』もまた、平成という時代精神の促しによって生まれたもの、といって差支えないだろう。それほどに、著者の時代に対する危機感は深い。
 本書は、「山田方谷の人物像」、「擬対策」(対策に擬(なぞら)う)、「詩」の三部で構成されている。「山田方谷の人物像」の部は、方谷の人間とその思想の原点を、父祖の遺訓や覚え書きの中にさぐり、さらに、時代のエートスとしての陽明思想への傾倒ぶりを的確に伝えている。
 「擬対策」(対策に擬(なぞら)う)は、いわゆる修身斉家、治国平天下の要諦が17条にわたって簡潔に述べられたものだが、この17条という数は、<十七条憲法>になぞらえての章立てであろう。本書においては、まず本文の読み下し文を示し、次いでわかりやすい「口語意訳」と洞察に充ちた「解説」を施している。
 詩の部を設けた理由について著者は「山田方谷にとって詩はどういう存在であったかを考えると、方谷にとって詩を作ることは精神を正常に保つという大きな要素をもっていたと感じます」と述べている。つまり、方谷もまた、「詩は志」という『詩経』の精神を体現した詩人であったからである。
 『陽明学のすすめ』は、いわば一種の予言の書であり、黙示録的性格を帯びているところが大きな魅力であろう。本シリーズは全10巻で完結というから、残すところあと7冊だ。次巻の刊行を楽しみに待ちたいと思う。 



『陽明学のすすめ V 山田方谷「擬対策」』序文
二松学舎大学元理事長 山 田 安 之


 今年元旦、私は湯島聖堂大成殿で、恒例の「論語素読始め」を聴講した。例年になく参加者も多く、古典を学ぶことで、社会全体に閉塞感が漂い、出口の見えない時代に、心のよりどころとなる何かを見つけようと考える人が、いま確実にふえているのを感じた。
 さて、この度、深澤賢治氏が「陽明学のすすめ」シリーズ第三弾として、山田方谷「擬対策」を上梓されることになったのは、誠に時宜をえて喜ばしいことである。
 方谷は27歳から32歳にかけて、京都、江戸へ遊学し、佐藤一齋の塾で学んでいるが、「擬対策」はその頃、30歳前後の作とされている。その内容は、同じ頃書いた「理財論」が経済・財政論であるのに対して、本格的な政治論であり、当時の社会の風潮を鋭く洞察して、広く政治に携わる者の資質の高さと強い倫理観を求めており、国家盛衰の理についても言及している。
 また、深澤氏の著作では「擬対策」本文にとどまらず、方谷の生涯や事績について述べ、さらに、方谷が書き残した1,056首の漢詩の中から代表作を紹介しており、方谷の人物像を多方面から理解する上で格好の書となっている。
 深澤氏については、前著『財政破綻を救う山田方谷「理財論」』が小学館から出版された際、跋文の中で紹介させていただいたが、いまは経営者としての多忙な業務の傍ら、文化団体「中斎塾」を主宰し、日本古来の伝統である「知足精神」を現代に普及させるため、東京・群馬を中心に精力的な啓蒙活動を展開している情熱にあふれたえ文化人である。
 わが国が政治・経済・教育すべての分野で混迷を深めている今、幕末、備中松山藩の藩政改革で大きな成果をあげたことで知られる私の高祖父・方谷の著作が、新たな視点で訳出され、多くの読者に読まれることになった意義は大きいものがあり、現代日本の閉塞感を打破する手がかりになれば幸いである。
 (追記)
 本書の表紙に載せられた「盡(じん)己(こ)」(わが誠心を尽くす)は、方谷が一斎に学び、その塾を去る際、贈られた書であり、その精神は方谷の生涯を通じた指針となり、今も山田家の家訓として引き継がれている。


まえがき
深澤 中斎

 『陽明学のすすめ―経営講話「抜本塞源論」』を、平成十七年九月に世に問うてから三年有余が過ぎました。
 日本は、いつ破綻してもおかしくない、そのような表現を使っていたと覚えておりますが、それ以降、日本の状況は悪化の一途をたどっています。
 陽明学を修め、現実に活かし、すばらしい成功をおさめた山田方谷の人物像・業績・考え方に照準を当て、いまの世に、是非、活かしたいと考え、『陽明学のすすめV』を書こうと考えた次第です。
 折しも、政権が自民党から民主党に変わりました。日本政府も新しい政権が生まれたわけで、これからどのような世の中になるか、考えるだけでもわくわくしているところです。民主党政権は是非、日本の過去の歴史に学び、山田方谷の考え方・業績を、新政権で取り入れてもらいたいと考えます。
やはりものごとは、何をどう考えるかが基本であって、実行はその後に続きます。政治家は知行合一のもと、有言実行であって欲しいと考えています。是非、民間は草茅の危言を言う方々が多く生まれ、政治家は陽明学を学んだ人たちが実際の政治に就く。そのような形になれば嬉しいと思っています。
山田方谷は、詩人でもありました。日本の漢詩学会では第一人者である石川忠久先生に山田方谷の詩についてお尋ねしたところ、即座に、「素晴らしい詩を書く人だ。私も方谷の詩に非常な関心を持っている」とおっしゃっておられた事を書き添えます。
   

あとがき
深澤 中斎

『陽明学のすすめ』をシリーズで10冊書こうと決め、今回で3冊目になりました。
山田方谷は、日本全体が苦しんでいるデフレスパイラルから脱却する方法を示してくれていると思います。
以前、小学館文庫で『財政破綻を救う 山田方谷「理財論」』を書かせて戴きましたが、今回の「擬対策」は政治論です。
個人も家庭も、会社も自治体も、当然、日本国も赤字に悩み苦しんでいる人は、是非、山田方谷を研究して欲しいと思います。この「擬対策」が、お役に立つ事を願っております。
私は、デフレ・デノミネーション・預金封鎖・新札発行・旧札の紙屑化・デフォルトと、荒波が次々と日本国民を襲うと考えていますので、今のうちに自己防衛対策を練り上げ、実行すべきであろうと思います。
 今、赤城山におりますが、肌を刺すような冷たい空氣に氣がひきしまります。
 今回も、株式会社 中斎塾の關根茂世事務局長と佐藤昌子さんの御二人が絶大な能力を発揮して戴き、よくぞ形あるものに仕上げて下さいました。特に關根事務局長は「擬対策」の訓読・口語意訳を担当、佐藤さんはいつものように面倒で厄介なテープ起こしを軽快に処理して戴きました。「擬対策」訓読・口語意訳につきましては、二松學舍大学の成田修一先生に綿密な校正をして戴きました。皆様に心から感謝申し上げます。
 又、本書を発行するにあたり、二松學舍大学元理事長の山田安之先生には、身のひきしまるような序文を賜り、恐縮しつつ深謝申し上げております。
 岡山理科大学附属高校の山田敦先生には、方谷先生愛用印章から「以文會友」の印影でカバー表紙を飾らせていただく事をお許し戴きました。ご侠援、勿体無く存じます。
 更に高梁市西方の田井章夫先生には、常にあたたかきご示教を頂戴し、有り難く、高梁市歴史美術館には、同館編集図録「山田方谷の世界」から、方谷先生の大硯と幼年期の書(奉納額「風月」)の写真を、それぞれ化粧扉と本文中に使わせていただくお許しをいただきました。学芸員・加古一朗氏のご高配に感謝申し上げます。
 最後に明徳出版社の佐久間保行編集長・担当の高野麻紀子さんには、いつもの事ながら御迷惑をかけつつ、一方ならぬお世話になり、御礼申し上げます。