このたび、私の心友であります深澤賢治氏が、王陽明の「抜本塞源論」を採り上げて、現代の息吹をあて新解釈を施し出版されました。混乱した現今の情勢からみて、まことに時機を得た著作であると確信しております。
王陽明は、中国明代中期の哲人。優秀な官吏であり、武人であり、聖賢の学問、心身の学を講じた活学者であります。
「抜本塞源」とは、頽廃の時代、混迷の深まる時代に対処するためには、些細な枝葉末節な事柄ばかりに右往左往するのではなく、事柄や問題の原因である根本は何であるかをしっかりと把握して、その源を塞ぐことを考えねばならない。そしてそれは帰結するところ、安易な考え方を捨て自らを鼓舞して事に当るよりほかはないという意味であります。
深澤賢治氏は、大学卒業後会社を設立して多忙な日々を過しながら着実に事業を拡大しておられ、また単なる利益追求のみに走る浮薄な経営者ではなく、中国古典をはじめ先哲の教訓を心の宝典として、まことにしっかりとした経営哲学をもっておられることです。
これまで著者は、渋澤栄一の「渋澤論語」、佐藤一斎の「重職心得箇条」、さらには山田方谷の「理財論」を解説した書を刊行して世に問うております。これは事業経営のなかにあって寸暇を惜んで研究、研鑽を重ねなければ出来ることではありません。と同時に若い時から人生計画を立て、立志から老境に至るそれぞれの年代を常に自省しながら、情熱と活力をもって一歩一歩確実に実現していることは注目に値します。
本書は、「抜本塞源論」について事業経営者の経験から解明を行い、平易に著したものであり、混迷した現代社会、荒廃した精神状況に警鐘を鳴らす活学の書として多くの方々に味読していただきたい一冊であります。
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書評
深澤賢治著『陽明学のすすめ−経営講話「抜本塞源論」−』
群馬社会福祉大学教授・文学博士 中里麦外
上毛新聞社 平成17年9月11日(日)掲載 |
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陽明学は、時代が深いクレバスに落ちたときに新しい輝きを帯びて登場してくるようだ。
大塩平八郎・北一輝、三島由紀夫たちの行動を深く律したリゴリズムやストイズムは、王陽明の思想と無関係ではないからである。
新著『陽明学のすすめ』は、陽明思想を学術的に追求した研究書ではない。平成維新とも言われる激動の現代を力強く生き抜くための指針を示した行動の書であり、予言の書でもある。
本書は、「王陽明の人物像」と「抜本塞源論」の二章で構成されている。「王陽明の人物像」では、陽明という人間の精神構造やその生涯が見事な手さばきで腑分けされていることに驚く。(王陽明は)「幸せも不幸せも、大きいものを沢山受け止めた人物であった」と著者は言う。この評言は、陽明の大きさを伝えているばかりでなく、陽明をそのように捉えることができたこの著者自身のスケールの大きさもまた語っていると言えよう。
「抜本塞源論」は、「第一条学問の混迷」から「第十五条抜本塞源論」に至るまで、全十五条にわたって「抜本塞源論」の原文を平易かつ独創的に読み下し、さらにそのしんじつについて深い経験知を縦横に織り交ぜつつ、語り及んでいる。
著者は、すでに『渋澤論語をよむ』『新釈 佐藤一斎「重職心得箇条」』『財政破綻を救う「山田方谷・理財論」』などを著して、あるべき経営哲学のすがたを世に示した。それらの根本思想としての陽明学をテーマとしたものが本書である。
また参考文献や王陽明の略年譜などが巻末にあるが、これはまことにありがたい。
福沢諭吉の『学問ノスヽメ』は、いわば明治啓蒙思想のスタンダードとなった。
『陽明学のすすめ』が、当代思想のスタンダードになるかどうかはわからない。しかし、本書が困難な現代を生きる私達を鼓舞する力を備えていることは間違いない。
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