このところわが国の先人の知恵から生まれたコトバが、大きな話題を呼んでいる。 <米百俵>や<三方一両損>などがそれだ。 重大な困難に直面した民族や国家は、内なるその歴史の深層へ向って動き出すという。 そうだとすれば、いま、鍛えあげられた近世正統儒学の思想とその実践力が、熱い期待の対象となっているのは、偶然ではないかもしれない。 小学館文庫として刊行された本書は、そうした時代の精神が生んだ<行動の書>である。 「重職心得箇条」は、幕末の儒者佐藤一斎(一七七二〜一八五九)が、一藩の家老の心得について十七条にわたり書き著わしたもの。 本書のテクストは『佐藤一斎全集第一巻』(明徳出版社)所収の本文にもとづき、それに平明な口語訳と適切自在な解説を加えて仕立てられている。解説は、もともと、シムックス・カルチャーセンターの人間学講座で講話した内容に加筆修正を施したものという。従って読み易く、肩が凝らない。 本書の著者は、一代で、総合警備業シムックスグループを育てあげた、いわば立志伝中の人物である。本書が、骨太の説得力を備えたゆえんであろう。 本書の目次を見ると、思わず読んでみたくなるなるような項目見出しが、目に飛びこんでくる。「人物の条件・部下の活用・時流を見抜く・前例を破る・機を見る・公平と中庸・苛虐の戒め・心の余裕・人事の把握・長期計画・度量の広さ・私利私欲の禁・相互信頼・省く、省みる・猜疑を慎む・情報の公開・人心の一新」の十七条。 聖徳太子が制定したとされる「十七条憲法」は、あまりにも有名だが、佐藤一斎が、この「重職心得箇条」をあえて聖徳太子の顰(ひそみ)に倣(なら)って<十七条>で示したのは、深い意図があったと私は考えている。 つまり、マツリゴトや人間の行動は、天と地と人への広く深い<マコト>に根ざして実践されなければならないということだ。
本書のもっともすぐれている点は、佐藤一斎と一体となった著者が、そうした<マコト>を、熱い心で平易に語りかけてくるところにあろう。
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推薦文
二松學舎大學 學長・全国漢文教育学会 会長 石川忠久
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人の世は、識見と定見が大事である。
識見を養うためには、歴史、しきたりを知らなければならない。
定見はゆるぎない信念である。
実際の行動の規範としては、公平に裁決する事と大小軽重をあやまらない事だ。
このような教えは、会社にも一般社会にも応用がきく。
これだけ具体的で、こなれた文は数少ない。全体に深澤賢治氏の経験と素養がにじみ出ており、推薦に値する。
この本を座右において、読む事をお勧めしたい。
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